10時頃来てよね

奇妙な実話(怪談)の覚書き。

友達の部屋に幽霊が出る話 <歩く冷蔵庫>

友人Aの部屋に泊まった時の話をしようと思う。

 

友人Aとは学生時代に知り合い、疎遠になりがちな私をいつもそっと支えてくれていた。

とても聡明かつ優しい女性で、お互いの実家にも泊まりに行くような仲良しだった。

今では年賀状程度の交流しかないが、それも私の友人付き合いの下手さ故のこと。年賀状をくれるだけでもありがたいと思っている。

 

さて。

話は今から数年遡る。

就活の関係で、私は、友人Aが独り暮らしをしているマンションに連泊させてもらうことになった。4泊ほどにもなるのに、彼女は笑顔で快く迎え入れてくれた。

平日は働いている彼女のためにできるだけ家事をし、夕飯を用意しておくと「帰ってきてごはんがあるなんて、こんなにうれしいことなんやね」と非常に喜んでもらえたのを覚えている。

友人Aの部屋には時折彼女の同僚が泊まりにくるらしく、客用の布団、客用のパジャマなど一式がすぐに取り出せる場所においてあり、「ああ、ちゃんと新しい人間関係を作って楽しくやっているんだなあ」と私もうれしく思っていた。

 

金曜の夜だったと思う。翌日は休みだから、撮り溜めているオススメの海外ドラマを一気見しようということになった。今で言う推し活だ。タイトルは失念してしまった。

 

夜が更けてくると、友人Aがスクッと立ち上がり、キッチンへ向かった。

 

広いとは言えない1Kの部屋で、数歩離れると独り暮らしサイズの冷蔵庫が置いてある。友人Aは冷蔵庫の前に立つと、「~~~~~~~~」とよく聞こえない言葉をつぶやいていた。

「何か言った?」と私が訪ねると、

真言唱えてんねん」と笑顔で答える友人。

「え?なんて?」真言ってあの呪文みたいなやつ?と思いながら聞き返す。

「〇〇って漫画に真言がいろいろ出てくんねんけどな、それの、これ」

と彼女ははっきり声に出して真言を唱えた。

いわゆる、「オン、ソワカ・・・」的なやつ。

漫画のタイトルも真言もはっきり覚えていないが、悪霊と戦う系の少女漫画だったと思う。私はたぶんその漫画を読んでなかったんだろう、頭に炎のミラージュが浮かんだのを覚えている。

「なんで?」

「あんな・・・」

友人Aは、ここ1年ほどの間、彼女に起こっている現象をすべて説明してくれた。

 

まず最初は、深夜の騒音。

夜中にドシンと何かが倒れる音がして目が覚める。

地震速報を見ても何もなし、本棚を見ても落ちているものはなし、寝ぼけたかなと寝直す。しかし1か月近くそれが続いたあたりから、どうもおかしい、と思い始める。

ある日、帰宅して部屋に入るなり、キッチンの冷蔵庫が15cmほど前に飛び出していた。もちろん地震は起こっていない。

気持ち悪いなぁと思いながら冷蔵庫を元の位置に押し込み、その日は眠りにつく。

すると夜中、ブオーンという冷蔵庫の音が部屋中に鳴り響き、うるさくて目が覚める。

これは冷蔵庫の故障だ、と一旦コンセントを抜いて対処。

さっそく週末に冷蔵庫の修理に来てもらったところ、業者さんには故障個所が特定できず、また通常騒音の原因となる箇所にも不良や劣化等がないと。

壊れていないなら買い替えるのもなぁ、と友人Aはそのまま冷蔵庫を使い続けることに。

ある夜、またブオーン、ガタガタという相当大きい音で目が覚める。部屋が揺れた気がしたらしい。

飛び起きて明かりをつけると、冷蔵庫が左右に揺れながら前進している。

もうええわ、ほっとこ。と、そういうことを目の当たりにした時の妙な冷静さで、二度寝につく。

「でもずっとやねん。ほんでええ加減、寝不足になってな、試しに、昔漫画で読んだ真言を唱えてみてん」

「なんで?」

「いや、フト頭に浮かんだのがそれやったってだけやねんけど」

「で、どうなった?」

「それが、真言唱えたとたん、ピターッと止まってん。音も、ガタガタも」

 

それ以降、夜中に冷蔵庫がガタガタし始めると真言を唱えていたが、ほぼ毎晩ではさすがに寝不足になる。

そこで試しに、夜寝る前に冷蔵庫に向かって真言を唱えておくという予約システムを導入したところ、その夜はガタガタが鳴らず。翌日も試すと、夜中に起こされることはなく。

という経緯で、夜寝る前に冷蔵庫に向かって真言を唱えるのが日課になったとのこと。

 

こう書くと友人Aがオカルト思考の持ち主のようだが、彼女はオカルトや心霊からは縁遠い人で、相当数の漫画や映画を見るがオカルトもの、ホラーものはほとんど持っていない。好きな作家が描いていれば読む、くらい。

実際、彼女との長い付き合いの間で、こういった怪奇、心霊的な話になったのは、この時が初めてだった。ゆえに私は「この人が真面目に言うんなら本当なんやろうな」くらいの漠然とした肯定感はあった。

 

が、漫画に出てきた真言を唱えてみた、という友人Aの行動に、言葉にできない奇妙な違和感を覚えたのは確かだった。